コミカルエッセイ『お食事デート』

アイキャッチ(エッセイ3) エッセイ
筆者
筆者

過去に書いたコミカルエッセイ調のお話をアップします。

あれからもうこんなに時間が経ったんだなぁ。

『お食事デート』

H28.6.8 記述(職場の上司にネタ的にお見せするていで書きました。)

※一部体裁等修正済み。

□□:桃花が居住している市名が入る。

○○:桃花の本名(名字)が入る。

 私はとあるボイトレのスクールに通っていますが、最初に教わっていた先生が忙しいため来られなくなり、代わりの先生も忙しい方なのでなかなかタイミングが合わず、最近では、コースは違いますが別の先生に習っています。その先生は、スクールでは実質、代表者の次くらいのポジションにいるような方で、よく自主連に行ったりすると、生徒さんとお喋りをしているその先生のよく通る笑い声が聞こえてきます。どんな人とも笑顔で楽しそうに喋り、明るく前向きなその先生を、私は習い始めた当初から「素敵な先生だな」と思っていました。

 その先生が自作した曲を公開したとLINEで連絡があったので、私はすかさずYouTubeにアップされた曲を聞きにいきました。ゲームのバトル時の曲とボス戦の曲だったのですが、普通に売られているゲームの曲に劣らず見事な曲だったので、手放しに感激し、次に会った時にほとばしる感動をお伝えしました。ちょうどその時間は空き時間だったらしく、私は1時間も、その先生の素敵な笑顔を前にしてお喋りをさせていただくという幸福を味わうことができました。

 その時に少し距離が縮まったことを実感していましたが、ある日、その先生から、「次のレッスン後食事にいきませんか?」というお誘いをいただき、前日までは元気がなく疲れ果てていた私は突然ハイテンション・マックスになり、もう喜んでお誘いをお引き受けしました。こんなことってあるんだろうか、明日本当に自分はあの先生とお食事デートに行くんだろうか、とほぼ取り乱した状態になり、明日着ていくデート服は何にしようとか乙女らしいトキメキに胸を躍らせ、沸き立つ想いをお手紙にしたためて、興奮した夜を過ごしました。

 翌日、どういう具合にスイッチが入ったのか、私は朝4:30に目覚めやがり、ルンルン気分で朝の準備をし、大人な格好の□□市民から極めて浮きまくったカラフル衣装に自らの高ぶった気持ちが充分過ぎるほど反映されていることを半ば照れ、半ば微笑ましく思いながら一日を過ごし、その先生とのレッスンを迎えました。

 4畳ほどの狭い個室でのレッスンが終わった後、「じゃあ、今日行く場所、ここで決めちゃいましょうか。他の生徒の前だと話しにくいので」と言われ、意気投合した二人の情熱が立ちこめる密室で、私達は場所の相談(=愛の秘密会議)を始めました。そもそも外食というものをせず、□□のお店にも無知な私は、ただ先生が私を気遣ってどんな店がいいのか尋ねてくれるのをほとんど聞き流し状態で、近くにあるその先生の笑顔に見とれていました。そして思わず、「私は先生と一緒ならどんなお店だっていいです!」という自分でもクラクラするような強烈アタックを投げかけ、耳に幸福な力強い笑い声を受けて、「じゃあ○○さんに似合うような、女子力たっぷりのお店にいきましょうか」と言われて前後不覚の有頂天になりました。

 その方の隣に並んで歩くという夢みたいな状況で、「先生のようなすばらしい方でも、他の一般市民と同じように街中や□□駅を歩いたりするんですね」とかいう意味不明な会話にも先生は笑顔で受けてくれ、こんな素敵な方が世の中にいるんだろうかとまたまた途方もなく幸福な気持ちになりながらお店へ向かいました。

 メニューを決める時も、届くのを待っている時も、元々口下手で言いたいことが思うように言えない私は、せっかくの機会なのに何も言えず、メニューも目に入ってこないほど呆然としていて、「幸福=無言」という〝哲学的幸福論〟の公式を体感していました。私なりに一生懸命、質問をしてみたつもりですが、もしかしたら日本語になっていなかったかもしれません。それでも心の広い先生は最後まで魅力的な微笑みを見せてくれ、素敵な声で私の心をほぐし、やわらかくなった心を波のようにさらっていきました。

 私は懸命に、自分がその先生をいかに尊敬しているか、憧れているか、この世の中にこれほど芸術的才能が素晴らしく次々に作品を生み出し、ピアノや歌もたぐまれな才能を持っていながら、いかに誰からも愛される魅力的なお方であるかを切々と説きました。しかしその強い思いもなかなかうまい言葉にまとまらず、自分の口から出てくる語彙の貧弱さに自己嫌悪していきました。それでも先生には私の気持ちが少しは伝わったらしく、「自分も、○○さんのこと好きです」という夢のようなお言葉をいただいてしまったのです!! 愛の光に打たれた私はラブレターを手渡し、その手紙が少しでも自分の言葉の足りなさをフォローしてくれることを願いつつ、二人幸せいっぱいの気持ちで店を出ました。

 その先生はJRであるにも関わらず、地下鉄の私を改札まで見送ってくれました。誰よりも優しい方だわと改めて尊敬し、崇拝し、もう青春の喜びに打ちひしがれて帰宅しました。帰ってからも二人はLINEで幸福をやりとりし、相手が素敵な夢を見ることを祈って眠りにつきました。

 やさしく明るく前向きで、私の百倍は女性らしく可愛い彼女は、ずっと、私の憧れです。

(完)

筆者
筆者

こういう話(オチ)はちょとネタにしにくい時代になってきました。

一応恋愛対象は男性です。

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